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1925年に「中外貿易合名会社」として生まれたCBC株式会社は、2025年に創業100周年を迎えます。
CBCの中でも最も長い歴史をもつ部門 が、ケミカルズ&マテリアルズ ディビジョン。染料や顔料の輸入・販売からはじまり、現在は合成樹脂や溶剤、電子材料など、幅広い化学製品の企画開発および販売を手掛けています。
そんなCBCの屋台骨ともいうべきケミカルズ&マテリアルズ ディビジョンですが、そこで手掛けた製品や材料は、日常生活のどういった場面で使用されているのでしょうか。今回は、今後の同部門においてより大きな事業になることが予想されている 「パワー半導体」をテーマに、その取り組みや生活の中での関わりを紹介します。
製品の「筋肉」および「心臓」となる、パワー半導体
サステナブルな社会の発展が求められる現在、エネルギーの有効活用および省エネルギー化の取り組みの中で注目を集める「パワー半導体」というデバイスをご存知でしょうか。
まずは、パソコンやスマートフォンに内蔵されているCPU(中央演算装置)等に使用される「ロジック半導体」。
データ制御や計算を得意としており、多くの方は半導体と聞くと、こちらを想像するかもしれません。
一方のパワー半導体は、このロジック半導体とはまた別の機能を持つものです。情報ではなく電力を扱う半導体で、電気を機器にあわせた形へと変換するのがその主な役割。
例えば、電線を通して家庭に届いた電気は、そのままではパソコンや家電製品を動かすのに使うことができません。電気は、送電中のロスを少なくするために「交流」と呼ばれる方式で家庭へと送られます。しかし、一般的な電子機器は「直流」の電気によって動くため、それを使うためには交流から直流へと、電気を変換する必要があるのです。
テレビやエアコンなどほとんどの家電製品に内蔵されており、交流から直流へ電気を変換するだけでなく、使用する用途にあわせて変圧したりするのがその役割です。
他にも「直流を交流に変換する」「交流のまま、周波数を変える」といった処理を行う場合もあり、電気を扱う場所では必ずと言って いいほどパワー半導体が使用されています。
体を動かすためには欠かせない、脳とは別の重要な役回りを受け持つ器官なのです。
近年ニーズが拡大しているパワー半導体の用途のひとつが、電気自動車(EV)やハイブリット自動車(HEV)です。
ガソリン車からEV移行への気運が世界的に高まり、自動車のエンジンを動かす用途だけでなく、その充電スタンドなど、EVを中心とした大きな需要が生まれているのだとか。
そういった「電気を制御・変換する」用途で用いられるパワー半導体で重視されるのが、受け取った電力を、ロスを抑えて制御することです。
パワー半導体に電気を流すと、その電気抵抗やスイッチングによって、半導体自体が発熱します。これは、本来はモノを動かすエネルギーとなるはずだった電力の一部が熱となって放出されてしまっている状態で、ここで失われたエネルギーを「電力損失」と呼びます。
性能の良いパワー半導体とは、すなわち「電力損失を抑えられる」半導体のこと。現在のパワー半導体は一般的にシリコン(Si)を主要素材として作られているものの、今後は炭化ケイ素(SiC、シリコンカーバイド)や窒化ガリウム(GaN)といった新素材が、より電力損失を抑えられる次世代パワー半導体の材料として注目を集めています。
多くの国や企業によるカーボンニュートラル(脱炭素)や省エネルギー化の取り組みのなかで、エネルギーを「ロスを抑えて使う」ための縁の下の力持ちとして、パワー半導体は無くてはならない存在となっているのです。
パートナー企業と共に、パワー半導体の研究開発に取り組む
CBCのケミカルズ&マテリアルズ ディビジョン(以下、CMディビジョン)は、各種領域のプロフェッショナルともいえる技術・知見を持つパートナー企業と共に、パワー半導体の開発および製造、そして将来的に広く活用されるであろうパワー半導体の新素材の研究に取り組んでいます。
例えばパートナー企業のひとつに、大手メーカーを退職したベテランの技術者によって構成された少人数精鋭のファブレスメーカーがあります。
ファブレスメーカーとは、自社内では製品の企画・設計のみを行い、製造を外部に委託する「生産設備を持たないメーカー」のこと。企画設計から製造までを1社ですべて行う「垂直統合型」の製造体制ではなく、同ファブレスメーカーのように各工程を別企業で担当する体制を「水平分業型」と呼び 、半導体製造において、現在は後者が主流となりつつあります。
同社は水平分業型のメリットとして委託先の工場が持つ設備と製造力を生かしながら、製造設備の運営等にかかるコストを削減。CBCも同社と協力しながら、国内企業の強みを生かしたパワー半導体の生産およびビジネスモデルの構築を目指しています。
パワー半導体は電力損失を抑えるだけではなく、電子機器の使用には適さない高温多湿な環境下でも機能することが求められる場面もあります。
そこで、既存のパワー半導体が抱えている課題を解決する、新素材の研究開発が積極的に行われています。
現在、「次次世代」のパワー半導体の素材になると言われているのが、「合成ダイヤモンド」。炭化ケイ素や窒化ガリウムといった次世代パワー半導体の素材よりも、高耐圧かつ低損失、高温化でも使用できる特性が注目され、現在実用化に向けた研究がなされています。
CBCはパートナー企業とともに、この合成ダイヤモンドの研究開発、および販売に取り組んでいます。いま使用されている素材にとどまらず、より先を見据えた研究・開発を手掛けることで、未来のパワー半導体市場の創出と、新しい素材の安定供給を目指しているのです。
その他にも、既存のやり方ではないプロセスで電子回路基板を量産する技術を持つ企業や半導体の分析機関など、CBCはそれぞれの領域のプロフェッショナルと言うべき企業とパートナーシップを結んでいます。化学製品を専門とする商社としてパートナー企業へ素材の開発供給から販売フォローを行うことで、将来的な次世代パワー半導体の確立を目指しているのです。
「化学と電気」の、CBCの強みを生かした勝ち筋
CMディビジョンがパワー半導体事業に取り組みはじめたのは、およそ5年前のこと。化学製品を専門として扱っていた同ディビジョンが知見を持たない新領域で事業展開するためには、新領域での「勝ち筋」を探す必要がありました。
半導体を製造する技術や設備、技術者や企業とのコネクションも持たないCBCが、すでに成熟した半導体市場に挑み、大きなインパクトを与えるのはとても困難。メーカーや他の商社にはできない方法で市場にアプローチしなくては、勝機はつかめません。そこで目をつけたのが、当時はまだニッチな製品であった「パワー半導体」だったのです。
パワー半導体は、今後より大きな需要が見込めるだけでなく、研究開発においては「素材を扱うこと」がとても大きなウエイトを占めています。CBCのCMディビジョンは会社設立から化学製品を取り扱っており、素材の研究開発に関して、歴史の中で培った知見、そして関係企業との強いつながりを持っています。
炭化ケイ素や窒化ガリウム、合成ダイヤモンドといった今後パワー半導体での使用が想定されている素材の研究開発では、このCMディビジョンが持つリソースを十分に活用できるはず。パワー半導体であれば、CBCの強みを活かして「電気と化学を結びつける」ことを実現できると考えました。
半導体の市場は、国内の大手メーカーが中心となってエコシステムが形成されている、すでに完成された「閉じた」市場。
そこへ新たに参入するためには、まずは完成された市場の一員となる必要がありました。
業界のなかで光る技術を持っていたそれぞれの企業とパートナーシップを結んだのは、CBCが技術やノウハウを身につけるだけでなく、市場に参加し、ネットワークを構築していくための1つの方法だったのです。
CBCとパートナー企業との関係は「商品を仕入れて、売る」といった、従来の商社とメーカーとの間で結ばれるようなものではありません。
パートナーシップの中で、パワー半導体の企画設計や素材の研究開発といった技術面をパートナー企業が担当するのに対し、CBCが主に行うのはパートナー企業の製品を販売するための「営業活動」。将来を見越した研究開発に取り組む企業であっても、十分な利益をあげなくては研究活動を継続することができません。パートナー企業との研究開発を行うのはもちろんのこと、同時に営業担当として、その技術や製品を届ける役割を担っているのです。
こういったパートナー企業とCBCとの関係は、互いのリソースを提供し合って事業を推進していく「一蓮托生」のつながりといっても過言ではありません。パートナー企業の技術力や開発力、そしてCBCの素材に関する知見と営業力を持ち寄ることで、将来のパワー半導体市場の確立までを視野に入れた取り組みに邁進しているのです。
将来を見据え、手間と根気をかけた研究を行う
2022年時点で半導体市場の世界規模は約5740億ドル。そのなかでパワー半導体の市場は約238億ドル。市場全体においてこれは決して多いとはいえない金額ですが、エネルギー関連機器やEV等の需要の高まりにより、2030年には市場規模は369億ドルになると言われています。
他国と比較しても、高い競争力を持っているといえます。
しかしながら、欧米や中国のメーカーが投資して製造設備の拡充を行ったことが報じられており、今後は、市場の変化を見据えた競争力の強化が必要になるでしょう。
CBCとして今後より注力をしていくのが、パートナー企業に限らない「仲間づくり」なのだとか。これまで化学系の素材を中心に扱ってきたCMディビジョンには、まだまだ電子材料に関する知識を持つメンバーが少ないのが現状。事業拡大のためには、また異なった専門性を持つ社員が必要になっています。
まだまだ発展の余地があるパワー半導体の市場において、10年・20年、それよりさらに先の市場を見据えて、手間と根気をかけた事業発展を行っていくこと。そして、社内外の仲間とともに未来のあるべき姿を考え、将来の社会の一部となるパワー半導体の生産・供給に携わっていくこと。
CBCは、今後もパワー半導体の領域において「化学と電気」を結びつける取り組みに力を注いでいきます。
取材・文=伊藤 駿/編集=ノオト