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東京都大田区・平和島に拠点を構える、CBCオプテックス株式会社。同社は1995年に「アサヒビール光学株式会社」として設立され2005にCBCグループの一員となった、創業まもなく30年となる企業です。
CBCオプテックス社が主に取り扱うのは、「反射防止膜」や「バンドパスフィルター」、「ダイクロイックミラー」といった「光学薄膜(こうがくはくまく)」の蒸着加工です。
聞くところによると、この光学薄膜は身近な場所でもたくさん使用されているのだとか。日常生活の中ではなかなか耳にする機会がありませんが、具体的にどのようなものに使われているのでしょう?
また、同社による光学薄膜は、どのように生み出されているのでしょうか。
CBCオプテックス株式会社を訪ね、光学薄膜の役割や、同社のこれまでの歩みを聞きました。
「光を扱う場面ではほとんど使用されている」光学薄膜の役割
光学薄膜とは、レンズやガラス、金属の表面をコーティングする、特定の機能を持った「薄い膜」のこと。膜は髪の毛の1万分の1、数ナノメートル(100万分の1ミリ)という薄さで、光の反射や干渉を利用することにより、特定の波長の反射を弱めたり強めたりするために用いられます。
メガネでは、そのレンズ表面が光学薄膜の一種である「反射防止膜」でコーティングされています。メガネレンズで光が強く反射しないことや、レンズに周囲の景色や自分の顔が映り込みにくいのは、光学薄膜のおかげなのです。
他にも、光の特定の波長のみを通す光学薄膜である「バンドパスフィルター」が赤外線センサーに、光を特定の2種類の波長に分離させる「ダイクロイックミラー」がプロジェクターに……。それ以外にも、「光をコントロールすること」が必要な場面では、目に見えなくても光学薄膜が使用されていることがほとんどです。
大型のプロジェクターで使用される光学薄膜には、一般的なサイズのプロジェクターとは異なった機能や役割が求められます。きれいな発色を実現するため光とその色味をより高精度にコントロールする、そして強い光を継続的に当て続けても基板や蒸着膜が劣化しないようにするため、その用途にあわせて光学薄膜を設計する必要があるのです。
そういった、用途や目的にあわせた光学薄膜を設計し、対象となる基板(レンズやガラス、金属素材)に対して蒸着加工を施すのが、CBCオプテックス社の主な役割です。
より高い品質を保つための、真空蒸着の過程
CBCオプテックス社では、光学薄膜の加工は「蒸着(じょうちゃく)」と呼ばれる方法を用いています。薄膜を施したい基板の下部で材料(酸化物や金属といった薬品)を蒸発させ、表面に付着させていく加工方法です。
技術者の方によると「水を沸騰させたお鍋に蓋をすると、蓋の裏に水滴がつくイメージ」とのこと。この場合、お鍋の蓋が「基板」、水と水蒸気が「薄膜材料」で、蓋の裏についた水滴が「蒸着された薄膜」にあたります。水蒸気になった水が蓋の裏で水滴になるように、蒸発した薄膜材料が基板の表面で光学薄膜となるのです。
形成される光学薄膜の機能や性質は、薄膜材料の種類やその蒸発のさせ方によって変わります。精密機器に使用されるものや、複雑な機能が求められるケースでは、基板に対して約100層もの薄膜を形成することもあります。
では、蒸着加工は具体的にどのように行われているのでしょうか。CBCオプテックス社では、大きく分けて4つ、「薄膜の設計」「基板の洗浄」「蒸着」「検査」の工程を通して製品が加工・出荷されることになっています。
「薄膜の設計」は、お客様からの相談を受け、その目的やご要望に沿った薄膜の機能や役割を定義していく作業。打ち合わせを通して光学薄膜の機能や構造を決め、薄膜材料に使用する薬品や、その加工の方法を定めていく工程です。
次に行うのが、蒸着させる基板の「洗浄」です。蒸着加工では「100万分の1ミリ」という細かい単位で作業していくため、基板の表面に指紋やほこりが残らないよう、念入りに洗浄してきれいにしなければいけません。
薄膜の付加価値を高め、より高品質な製品を届ける
すでに多くの場所で活用されている光学薄膜ですが、社会の変化や技術発展にともない、新たな領域での需要も増えてきているといいます。
中でも、特に需要が高まっている領域が「レーザー」と「半導体の製造装置」。医療機器やセンサーといった分野ですでに導入が進んでいるレーザー機器ですが、精密機器の製造に用いる加工機などの需要の高まりにより、更なるレーザー市場の拡大が見込まれています。
また、より高集積化した半導体を取り扱う場合、その製造装置も微細な加工が行える高品質なものが求められます。そして、「ウエハーの表面に電子回路を焼き付ける露光装置」「位置精度を保つためのポジションセンサー」等、製造装置にはレーザー、そして高品質な光学機器が必要不可欠。ここでも、光のコントロールを陰で支える光学薄膜が大きな役割を果たします。
加えて、CBCオプテックス社が現在取り組んでいるのが、「製造・加工のユニット化」。
これまでは蒸着加工を中心に取り扱ってきた同社は、「研磨加工」や「接合」など、蒸着以外の作業は外部委託して製作を請け負ってきました。そこから、蒸着の周辺にある作業工程も自社内でまかなえるようにし、蒸着加工に関連する作業をワンストップで提供できる企業となるのが目下の取り組みです。ユニット化に向けたチームが同社内で立ち上げられ、プロジェクトはすでに動き出しています。
蒸着加工は、真空蒸着装置とシステムなど、機械で自動化できてしまえる作業工程も少なくありません。機器によって精度の高い加工ができる状況だからこそ、機械に置き換えることができない技術とノウハウを蓄積し、より難易度の高い領域の加工に挑むこと。そして、自社を通して提供可能なものを増やすことで、製品の付加価値をより高めていくこと。
CBCオプテックス社として、これまで培った光学薄膜の加工技術の価値を、どのような形で世の中に還元していくのか。社をあげて、その方法を模索している最中です。
グループ参加により、CBCグループとの間で生まれる相乗効果
商社でありながら、化学品や医薬品、合成樹脂といった幅広い製品を取り扱い、また製造会社としての顔も持つCBCグループには、ジャンルを問わず様々な製造・加工の相談が常に寄せられています。しかしながら、光学薄膜や蒸着技術に対する十分なノウハウを持っておらず、なかなか手を出すことができていない領域でもありました。
その後、CBCオプテックス社がCBCグループの一員となり、同グループのあらゆるプロジェクトに「光学薄膜のプロフェッショナル」として参加するように。国内だけでなく海外で進行中のプロジェクトに参加する機会も多くなり、CBCオプテックス社として手掛ける案件や、製作の幅が大きく広がったのです。
需要を見つけ、よりたくさんの場所に光学薄膜を届けたい
CBCオプテックス社は、新型コロナウイルス感染症の影響でストップしていた「海外における光学薄膜の需要の掘り起こし」の試みを、今年(令和5年)2月から少しずつ再開しているのだとか。
例えば、水・空気の滅菌や太陽光の発電効率向上によるエネルギー問題への取り組みを行うなど。持続可能な社会に向けた取り組みの中にも、光学薄膜が果たせる役割はまだまだたくさんあります。
取材の場で特に印象的だったのが、「光をコントロールする場面では、必ず光学薄膜の需要が生まれる」という言葉でした。今後もCBCオプテックス社とCBCグループで手を取り合い、「光」が関わるたくさんの場面や場所に、同社の技術を届け続けてまいります。
取材・文=伊藤 駿/写真=粕谷永/編集=ノオト